細川忠興

【R18】蜘蛛の巣を壊して

もう何度目だろう。数えるのも疎ましくなってしまった。与一郎が右近の体を抱くようになってから、一年ほどたった。きっかけは思い出せない。記憶という川に靄がかかったように不明瞭だ。…嘘だ。本当は忘れられない。忘れようはずがない。与一郎と最初に過ご…

SSまとめ2

十字架あきらめる為に切支丹になった、なんて聞いたら、右近は怒るだろうか。一度、言ってみたかった。あなたをあきらめる為に、神に跪きました、と。「飛騨殿は不思議な方です。ここまでわたしの心を受け入れてくださった方はいらっしゃいません」嬉しそうに…

拝啓、楽園の外より

彼の言葉を借りたとすれば、彼は一度死んでいる。死んだ人間は強い。生きている我々は常に自らの影に繋がれ、ただただ怯えるしかないだろう。だが彼にはそれがない。繋ぎとめるものをなくしたものは、あるがままに執着し、あるがままに求め、あるがままに手に…

初夢のはなし

それぞれに初夢がある初夢は割と最悪な夢だった。いや、それはもうどうでもいい。夢なんて大抵支離滅裂なのだから、それが自分にとって都合が良いものなのか悪いものなのかくらいでしか計れないだろう。吉夢とか凶夢なんてものはそれの最たるものだ。与一郎が…

【R18】毒の縛め

「可哀想なのでこうして差し上げます」与一郎はそう言うと、右近の弓のようにしなやかな腕を縛り上げた。と言ってもどこにも拘束はされていないし、右近がその気になれば簡単に解ける程度のものだった。「こうすれば、言い訳ができるでしょう?」誰かに見せる…

柘榴

光から柘榴が届いた。庭にできたものが、形も味も良かったため是非にと送ってきたのだという。手紙を受け取った新太郎が馬鹿に嬉しそうに見せてきたので、どうかしたのか聞いてみたら柘榴が好物なのだと答えたから、いくつか好きなものを持って行かせた。父に…

それはただの秘め事

迂闊だった。あまりにも迂闊だった。いくら酒が進んでいたとはいえ、その一言は言ってはならない一言だった。「どう言う意味だ」忠三郎はいたって真面目な顔でそう言ってきた。当然だろう。忠三郎が尋常でなく酒に強いことも失念していた。いや、与一郎とて酒…

絶望の夜明け

風の凪ぐ音が聞こえる。月の無い夜の帳の中でその景色がどうなっているのかは伺えないが、きっと冷たい風が吹き付けているのだろう。与一郎は身を起こしてその気だるさを改めて思い知った。…全部嘘だったらよかった。実はこれは与一郎が見ているとても都合の…

鶺鴒は夜霧を越えて

行ってしまった。多くの感染者を出した病は、嵐のように人々を巻き込んで行った。そして彼らは海で南を目指し、旅立った。彼らを先導する男は与一郎の深く知る人であった。まるで嵐のあとの夜のような日々だ。風の音ばかりがいやに響いている。結局彼の言って…

同じ想い 違う心

初めてそれを聞いたのは、久しぶりに二人で酒を飲み交わしていた時であった。その日は月の見えない夜で、隠し事を暴露するのにある意味ではうってつけだったのかもしれない。それに加えたいそう酔っていたのか、与一郎の親友は少々据わった目でとんでもない告…

知らなかった頃へなんて戻れない

形だけの棄教とはいえ、やはり心苦しい。いくつか身の回りのものを手放さざるを得なかったが、最初に洗礼を受けると決めたときに右近から受け取ったロザリオだけは、何があっても手放す気になれなかった。常に身に着け、自分を導いてくれた大切なものだ。ロザ…