細川忠興

夕立散らして

忠三郎の生まれた日は、それはそれは天気のいい日だったと聞いたことがある。なんとなく腑に落ちる。晴れた日の午後の日差しに忠三郎は似ている。何気なくそれを家中に話したら、与一郎の生まれた日は季節外れの夕立が激しい日だったと聞いて、それもなんとな…

君に世界

右近が死んだそうだ。詳しいことは知らないが、かの国に到着して早々、病気であっさりと死んでしまったと言う。彼らはそれを帰天と言っていた。そう言えば妻が死んだときもそう言われていた。魂が主とやらがいる天に帰るからそう言うのだと。馬鹿馬鹿しい。死…

【R18】毒の棘

これさえ終われば解放される。目を閉じ声を殺して、右近はただひたすらに与一郎から与えられる恥辱に耐えていた。いつか終わる、いつか与一郎は飽きるのだ。この体に、この行為に。聡い彼のことだから、これが不毛なものであると自分で気が付くはずだ。そもそ…

【R18】救われるもの

彼は愛していると言った。それに本当の意味で応えることは右近にはできない。しかし彼の好意を無下にしたくなかった。何ができると言うのだろう。この手で。この手でいったい何ができるというのだろう。こんな汚れた手で。人として生きて行く上でいくつかの顔…

その声について

そもそものきっかけを思い出すのは今も恥ずかしい。…夢に彼が出てきた。それだけだ。本当の本当にそれだけなのだ。夢に出てきた人間に焦がれるなんて、恋に恋する乙女ではないのだからと呆れられるだろうし笑われるだろう。自分でも笑ってしまうくらいだ。だ…

祈り、のち

眠りにつく前に忠三郎は神のもとに跪く。胸にかけた十字架を手に、何かを呟いて頭を垂れている。与一郎がいても変わらないその習慣は、神秘性をこめて美しくあると同時に、もはや与一郎の嫉妬心を的確に煽ってくるものでしかなかった。忠三郎が何かにすがって…

莫迦げた話

莫迦な話だ。本当に、莫迦げた話。「忠三殿は長生きに向いておりませんなぁ」酒の席でのこと。どうしてそんな言葉が出たか覚えていないが、たしかに皮肉を込めて言ったはずだ。老いて死を待つだけの存在になるよりも、忠三郎という男は若いまま、あっさりとこ…

【R18】輝く星の落ちる日の

年齢差というものはあまり気にしたことがなかったが、これはどうしたものか。若者の気持ちがわからんと一蹴するほど歳をとったつもりはないのだが、この若い義弟には日々驚かされる。「どういうつもりだ」与一郎がそういうと、右衛門は明らかに困った顔をした…

SSまとめ

貴方は与一郎×右近で『愛してみろよ』をお題にして140文字SSを書いてください。https://shindanmaker.com/375517「隣人を愛するとは、どういう意味なのでしょうか」聞き齧りの知識だ。意味なんかない。右近を抱くことに…

【R18】毒の獄

「男とする時はこうするものです」まあ、自分もそう男を抱いたことがないのだが。まあいい、少なくとも目の前の色の白い無垢な罪なき肢体には疑うべきものではないだろう。与一郎は右近の体を伏せさせ、丹念に後ろを解くと、ゆっくりと自らの雄で貫いた。初め…

いつかあなたに似た人が

改宗してしばらく言われたことは、教義でも救いでもなく右近との関係のことだった。「"右近の門徒"になったのであろう」口々にそう言う彼らに悪意がないことは知っている。彼らにあるのはたったひと匙の好奇心だ。右近が忠三郎に何度もしつこく勧誘をかけて…

【R18】毒薬の海

捕まえた虫を綺麗に分解することが好きだった。幼いころの話だ。今はもうしない。蝶々、カミキリムシ、名前も知らない虫…なんでもバラバラにした。手先が器用だったから、無駄に潰した虫は一匹もいなかったと記憶している。彼らは細部の一部一部すら美しかっ…