二人して俺になんの恨みがあるんだよ、と与一郎は言ったそうです
その日与一郎は苛立っていた。出かける用事が先方の都合で急になくなり、届くはずの手紙は届かず、手慰みで削り始めた作りかけの茶杓は盛大に手元が狂ってだめにしてしまった。そういう日もあるだろうと楽観的な人間ならば思えるのだろうか。与一郎にはそうい…
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滅びゆく者には愚かな言葉
忠興はそれから暫く体調を崩した。もとより体は強くはない。臥せっている彼を心配して何人か見舞いの使者が来たが、会いたくないので帰した。本当に誰にも会いたくなかった。そんな忠興が、会わざるを得なかったのが蒲生氏郷だった。氏郷は自らやってきた。だ…
明智光秀だったはずの妖怪がなんやかやあって細川家を籠絡する話創作戦国,明智光秀,歴史創作,細川忠興,細川興秋,蒲生氏郷
腐れ縁と馬鹿に付ける薬がない
馬鹿は死んでも治らない、という言葉を思い知る。久方ぶりに会った男は、自分の記憶とは何一つ変わっていなかった。仕事終わりの金曜日。男のスマートフォンに一件のメッセージが舞い込んできた。『相談したいことがある。』などという白々しくも、文面から察…
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明日晴れたら
右近は晴れの日が嫌いだった。雲が厚く立ち込め、今にも雨が降り出しそうな気候が好きだと言ったら、友人たちに怪訝な顔をされた。潔癖の右近殿らしくない、雨が降っては泥が跳ね汚れるではないかと。潔癖かどうかはさておいて、彼らは一つ勘違いをしている。…
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ある恋
それまで右近は自由に生きてきたと言っても過言ではなかった。家族を持ち、領地を持ち、幸せに生活していた。大掛かりな復活祭もやった。信仰とは生活そのもので、身に染みているものだ。それに抗わず生きることに誇りすら抱いていた。だから神の御名の下に、…
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正夢と現
これが夢なら悪夢だろうか。これが夢なら正夢になるだろうか。これが夢なら…「どうして」そう呟く与一郎を、忠三郎は愕然と見下ろすことしかできなかった。与一郎は顔を背けその目の色すら伺うことはできない。傷を舐め合うわけではない。そんなつもりで抱い…
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正しい涙
初夏の日差しが寺の縁側に腰掛ける忠三郎を容赦なく照らした。新緑の影が淡くなっては浮かび濃くなっては沈んでゆくのを、じっと見つめてはため息を漏らす。「あまり外にいてはこの暑さは毒になりますよ」そう言って茶を持ってきたのはここの僧侶だ。もう十年…
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十字架
あきらめる為に切支丹になった、なんて聞いたら、右近は怒るだろうか。一度、言ってみたかった。あなたをあきらめる為に、神に跪きました、と。「飛騨殿は不思議な方です。ここまでわたしの心を受け入れてくださった方はいらっしゃいません」嬉しそうに語らう…
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Crossroad
「どうして」この国を出るまであと僅かとなった夜明けごろ。すべてを捨て、すべてを遺してここを後にしようと、方々に形見分けを済ませ、海に浮かぶ朝日を眺めに外に出た右近はその姿を見て、思わずそう口走ってしまった。目の前に広がる深い海のような色の目…
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歴創版日本史ワンドロワンライまとめ #1
吹かねど花は散るものを(お題:花)忠三郎は元来桜が好きであった。優美な姿、散り際の潔さ。かくありたいとすら思った。咲きはじめや盛りの頃より、やはり盛大に散る姿が好きであった。「花もちらさて 春風そ吹」花見の時にそう詠うことすらあった。いつか…
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獅子の妹は虎
とらは昔から兄に憧れていた。いや、言い方が悪い。……昔から、兄が憎かった。男の兄が憎かった。もしも兄を殺して自分も死ねば来世は男に産まれられるというのなら、とらは喜んで兄を殺して自分も死ぬだろう。それくらい、男である兄を、そして女である自分…
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【R18】命ばっかり
一体いつからこんな関係になっていたのだろう。軽口をたたいては笑って、その所作の美しさに心を躍らせて、聖堂でうたを歌い、時には悲しみ、怒りをあらわにして……心のすべてを通じ合わせることができなくても、それだけで右近は満足だったはずだったのに。…
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