細川忠興

例え 赦されなくても

人は罪により生まれ、罪により生き、罪とともに死んでいく。良き行いをすれば天の国に迎え入れられ、悪い行いをすれば地獄が待っているという。子どもの頃から繰り返し聞かされた言葉だ。単純なようでいてその言葉は非常に奥深い。もちろん子どもの頃はそこま…

鳥籠の秘密

唐突に与一郎に呼ばれて、大した土産物も持たずやってきたが、やはりなんらかの言い訳をつけて断るべきだったかもしれない。呼び出した主人は所用で遅れると向こうの小姓は言っているし、ではまた出直すと言おうとしたら、主人からの言づけでございます、と小…

鶴の見るもの

与一郎は知っている。すべてではないが、それに近い何かを。彼から届けられたものを全て眺めたところで与一郎は溜息をつくと、舌打ちをして側仕えの若手を追い出した。乾いたはずの体がまた汗をかいている。忌々しげに拭ったが居心地の悪さは拭いきれない。今…

汝聖母なりや

鏡を愛しているようなものであった。珠子は自らの夫である与一郎を、珠子と同じだと思っていた。いや、珠子自身だと思っていた。髪の色も、肌の色も、同じに見えていた。抱き合って混ざると、どちらがどちらのものだかわからないほどだった。それが嬉しくて、…

小田原にて

その後ろ姿に与一郎は確かに動揺を隠しきれなかった。右近は戸口に立つ与一郎や忠三郎の存在に気がついていないのか、彼の唯一の主人である神に祈りをささげていた。跪き、なにかを呟くその姿はそれまで見てきたなによりも美しく、それでいて悍ましささえ感じ…