創作戦国

汝、まだ名もなき毒

光秀と関係する以上、彼の娘である珠子を抱けなくなるのではないかという畏れもあった。しかしその心配は杞憂だった。何故か珠子への欲情は消えなかったどころか、むしろ興奮さえした。それが彼女の実父に対する歪な欲望であったのことは間違いないだろう。し…

見知らぬ共存者

明智光秀が生きているという噂は、忠興をそれなりに動揺させた。直接その噂を聞いたことはない。きっと皆、忠興が彼の娘婿なことを気にして接しているからだろう。しかし、それでも耳に入るのが噂というものだ。そういうこともあって、ただの悪趣味な噂にすぎ…

【R18】雲を霞と、散りうるもの

「教えを棄てないのならばここで死ね。それすらも拒むのならば、お前の目の前で子供たちを一人ずつ殺す」それは自分でも笑ってしまうくらいの稚拙な脅し文句だった。こんなことをしたところで、彼女の父親は変えられないし、それらに惹かれる忠興が変わるわけ…

【R18】どうしても話を聞いてほしいノンケの右近vs絶対に話を聞きたくないバリタチの忠三郎

交流が生まれたばかりの頃、右近が忠三郎に教えの話をすると忠三郎は決まってその話はもう聞きたくないと右近の話を遮り避けてばかりだった。右近としては、忠三郎こそ救いの教えを聞くべきだと思っていた。もちろん彼が仲間になればより一層うまくことが運ぶ…

うたかた

天の御国の使い達は皆その背に鳥のように羽根を持っていると言う。そして自由に空を飛ぶことができるのだ……と、子どもの頃に教わった。当時、彦五郎と呼ばれていたころの右近は、ずっと空を飛ぶ鳥を透かして彼らを夢想していた。空を飛べたら楽しいだろうな…

三十二歳の別れ

「もう終わりにしよう」既に聞き飽きたその言葉に、与一郎は閉じていた目をゆっくりと開く。声の主を辿って視線を投げると、忠三郎はこちらに背中を向けていた。少し苛立たしい。そう言う大事なことはきちんと向き合って目を見て話すものだろう。こんな時にこ…

たとえ愛が刃なれど

「愛とはなんでありましょうか」忠三郎が突然そんなことを言い始めた。まるで外で遊んでいた子供が、何か面白いものを見つけてきたかのような表情だ。そこには凝りも濁りもない、澄み渡った感情が流れている。そんな彼が聖書にしるされた愛という言葉に興味を…

夕立散らして

忠三郎の生まれた日は、それはそれは天気のいい日だったと聞いたことがある。なんとなく腑に落ちる。晴れた日の午後の日差しに忠三郎は似ている。何気なくそれを家中に話したら、与一郎の生まれた日は季節外れの夕立が激しい日だったと聞いて、それもなんとな…

君に世界

右近が死んだそうだ。詳しいことは知らないが、かの国に到着して早々、病気であっさりと死んでしまったと言う。彼らはそれを帰天と言っていた。そう言えば妻が死んだときもそう言われていた。魂が主とやらがいる天に帰るからそう言うのだと。馬鹿馬鹿しい。死…

いつかあなたに似た人が

改宗してしばらく言われたことは、教義でも救いでもなく右近との関係のことだった。「"右近の門徒"になったのであろう」口々にそう言う彼らに悪意がないことは知っている。彼らにあるのはたったひと匙の好奇心だ。右近が忠三郎に何度もしつこく勧誘をかけて…

【R18】蜘蛛の巣を壊して

もう何度目だろう。数えるのも疎ましくなってしまった。与一郎が右近の体を抱くようになってから、一年ほどたった。きっかけは思い出せない。記憶という川に靄がかかったように不明瞭だ。…嘘だ。本当は忘れられない。忘れようはずがない。与一郎と最初に過ご…