高山右近

うたかた

天の御国の使い達は皆その背に鳥のように羽根を持っていると言う。そして自由に空を飛ぶことができるのだ……と、子どもの頃に教わった。当時、彦五郎と呼ばれていたころの右近は、ずっと空を飛ぶ鳥を透かして彼らを夢想していた。空を飛べたら楽しいだろうな…

たとえ愛が刃なれど

「愛とはなんでありましょうか」忠三郎が突然そんなことを言い始めた。まるで外で遊んでいた子供が、何か面白いものを見つけてきたかのような表情だ。そこには凝りも濁りもない、澄み渡った感情が流れている。そんな彼が聖書にしるされた愛という言葉に興味を…

人間だった

菊の花が枯れはじめた。切り戻しをいつにするかなどというどうでもいい会話を聞いた。冬のあいだ土の中で、新たな芽はどのような世界を目にするのだろうと、やはりどうでもいいことを考えていた。右近が死んで三年経った。彼が寄越した手紙を眺めることはしな…

苧環の運命

出会いは時として運命として付き纏う。主である全知全能の神によって試練を与えられ、人はそれに叶うよう努めて生きるべきだ。これは試練なのだろうか。この出会いは試練なのだろうか。違う。右近が忠三郎に出会ってしまったのは、けして運命という崇高なもの…

夢いずる地

夢いづる地天を指して誓うことは罪であり、また地を指して誓うことも同じく罪だ。そこは主たる神の玉座であり、足を置くところであるからだ。長い船旅によるものか、右近の体は目的地である流刑の島にたどり着いたころにはその命の灯を燻りつつあった。異国の…

【R18】秘灮

今日はどうも右近の様子がおかしいと忠三郎は最初から気がついてはいた。風邪でも引いているのかと何気なく聞いてみたが、本人曰くそうではないようで、昨晩すこし眠れなかっただけだと笑われてその場はなんとなく過ごした。しかし、やはり変なのだ。いつもな…

見知らぬ共存者

明智光秀が生きているという噂は、忠興をそれなりに動揺させた。直接その噂を聞いたことはない。きっと皆、忠興が彼の娘婿なことを気にして接しているからだろう。しかし、それでも耳に入るのが噂というものだ。そういうこともあって、ただの悪趣味な噂にすぎ…

【R18】どうしても話を聞いてほしいノンケの右近vs絶対に話を聞きたくないバリタチの忠三郎

交流が生まれたばかりの頃、右近が忠三郎に教えの話をすると忠三郎は決まってその話はもう聞きたくないと右近の話を遮り避けてばかりだった。右近としては、忠三郎こそ救いの教えを聞くべきだと思っていた。もちろん彼が仲間になればより一層うまくことが運ぶ…

君に世界

右近が死んだそうだ。詳しいことは知らないが、かの国に到着して早々、病気であっさりと死んでしまったと言う。彼らはそれを帰天と言っていた。そう言えば妻が死んだときもそう言われていた。魂が主とやらがいる天に帰るからそう言うのだと。馬鹿馬鹿しい。死…

【R18】毒の棘

これさえ終われば解放される。目を閉じ声を殺して、右近はただひたすらに与一郎から与えられる恥辱に耐えていた。いつか終わる、いつか与一郎は飽きるのだ。この体に、この行為に。聡い彼のことだから、これが不毛なものであると自分で気が付くはずだ。そもそ…

【R18】救われるもの

彼は愛していると言った。それに本当の意味で応えることは右近にはできない。しかし彼の好意を無下にしたくなかった。何ができると言うのだろう。この手で。この手でいったい何ができるというのだろう。こんな汚れた手で。人として生きて行く上でいくつかの顔…