細川立孝

溜息と指先と

飢えた子供ならいくらでも見てきた。身体の飢えも、精神の飢えも同様に。彼らの不幸を業と切り捨てるのは簡単だ。ある意味では光秀もたくさんの命を流れるがままに見送ってきただけなのだろう。手を差し伸べたところで、彼らは光秀の手にも気がつかない。救い…

ひまわり

油照りの中、国元から上洛した折のこと。吉田の邸で一息ついた頃に忠興は言伝があるということを聞いた。淀の永井尚政が花をいくつか贈りたいとのことで、特に時期は待たないが数奇で使って欲しいとのことであった。尚政は若くして老中まで上り詰め、今は畿内…

人間だった

菊の花が枯れはじめた。切り戻しをいつにするかなどというどうでもいい会話を聞いた。冬のあいだ土の中で、新たな芽はどのような世界を目にするのだろうと、やはりどうでもいいことを考えていた。右近が死んで三年経った。彼が寄越した手紙を眺めることはしな…