ひまわり

油照りの中、国元から上洛した折のこと。吉田の邸で一息ついた頃に忠興は言伝があるということを聞いた。淀の永井尚政が花をいくつか贈りたいとのことで、特に時期は待たないが数奇で使って欲しいとのことであった。
尚政は若くして老中まで上り詰め、今は畿内に入り京都所司代を支える要人である。それに織部に師事し数奇を解する男だ。忠興にもよく懐いている。少し喋りすぎるきらいがあるが、忠興もつられて話に入ってしまうような話を選択するので心地が良い。
だから断る理由はなかった。彼を招いて、どうやってもてなそうかとまで考えていた。そのときは。
贈られてきたのは天蓋花と呼ばれるらしい花だった。明から入ってきた植物だそうで、忠興も初めて見たものだった。大きく黄色い花弁に茶色の軸のようなものが密集している。
「茶花にするには大きすぎるので悩んだのですが、三斎様がどのように使うのかを教えていただきたく」
それはもはや挑戦状の類ではないだろうかと思わなくはないのだが、尚政に悪気がないことはわかっている。彼はそういう男だ。そういうところも好ましいとは思う。
さてどうするか、忠興は花を眺める。大きいものは忠興の背丈ほどあるのではないかというくらい茎を残したまま送られてきた。このままでは流石に飾れない。いくつか手持ちの花入を眺めるがどれもしっくりこない。
当初は中立ちを略したものだからと花籠に投込むのを想定していた。しかしそれでは面白くない気もする。
忠興が悩んでいると、ちょうど立孝が江戸から上洛してきた。彼は最近まで京の福寿院にいたが、寺暮らしを嫌ったので何年か前に手元に呼び戻した。今は立孝と名乗らせてはいるが、正式に還俗はしていないし、今も時折忠興などは坊と呼んでしまう。
彼は数日で国元に戻るというので、その前に烏丸家から孫の資慶を呼ぶことにした。ついでにこの新しい花でも見せてやろうと思ったのだ。思ったのと違う使い方だが、尚政もきっと悪い気はしないだろう。
「不思議な花ですね、なんだか見ていると吸い込まれてしまいそう」
立孝たちが不思議そうに花を見ている。茎が太いためか、水に浸すとなお大きく見える。
「数奇に使うんだが、果たしてどう使ったものか。花は野にあるようにとかつて教わったものだが…」
「これがこのまま野にあるのですかね…群生しているのでしょうか」
立孝の言葉に忠興も頷く。想像してはみるものの、それをそのままとなると難しい。茎はどのみち切るつもりでいたから、籠はやめて一重切りの竹に入れた方がいいのかもしれない。
「じじさま、この一番大きな花、私の顔ほどあります」
資慶がそう言うので見てみると、確かにこのまだ幼い孫の顔と同じくらい大きな花がある。ニコニコと笑っている資慶はなんとなくこの花に似ていると思った。和やかな空気は、忠興にいくつかの案を生んだ。
後日、尚政は鉈籠に入った大きな天蓋花を見た。それはそれは大きな花が、窓から差し込む光にその花弁の黄色さを散らしていた。