「ネロ…」
Vがネロを抱きしめ、その体に手を這わせる。暖かいその手の感覚に心地よさすら感じた。応えるようにネロもその手を伸ばし、Vの体に触れる。
ぎこちないそれにVは意味ありげに笑うと、ネロに仰向けに寝るよう目で示す。素直に従うと、ネロの首筋に噛みつくように唇を落とす。
それは優しくも獣が獲物を食むような激しさを孕み、ネロの首筋から鎖骨に落ちると至極当然のように胸を渡り下腹部に降りてくる。
ぞくぞくと体が震えるのがわかる。熱い。Vの唇が、舌が、ネロの魂を舐るように愛撫する。
「俺もお前に触りたい」
ネロがそう言ってVの髪を撫でるが、Vは静かに首を振る。
「さっきたくさん触っただろ」
確かにその通りではある。実際Vの生白い肌にはまだ前戯だというのにまるで事後のような激しい赤い痕や歯形がくっきりと残っている。
ネロなりに散々愛した結果である。Vはそれが気に入らなかったようだ。
「俺だって愛せる、お前のことも」
Vはそう言葉を吐くと、ネロの雄を手で撫ぜるように捏ねる。優しい刺激に思わず吐息が漏れる。
その反応を楽しむようにVはそこにわざと吐息をかける、ふる、と震えたネロの手が思わずVの髪をつかみそうになる。
そして当たり前のようにそこに舌を這わせようとするので、ネロは慌てて言葉を紡ぐ。
「いや、V…そんなことしなくても俺は…」
「でもシてほしいだろ?それに…お前は俺をどうしたいんだ?もう終わりにするのか?」
首をかしげるVにネロは返す言葉もない。これからことなんて考えたら夢でも見ているような気持ちだ。だが、そんな、相手のそれを舐めたり口に含むなんて、ポルノではないのだから敢えてやらなくてもいいとネロは思うのだが、Vはむしろ無邪気な子どものようになんの疑いもなくネロ自身を舌で転がした。
「いやいやいや、ちょっ、V…」
「散々俺を噛んだろ、仕返しだ」
Vはニヤリと笑うとそのやや厚めの色気のある唇でネロをいたぶった。
ネロは焦った。確かにこうされたいとも思ったし、こういうことをVがしたらそれはそれで扇情的でなまめかしくて良いだろうと。
だが、現実はそういうわけではない。すでにVの口腔内の温かさやぬるついた感触、更には吸い付いてくる刺激と舌による愛撫でネロは絶頂寸前だ。
「待てって、おい、ちょっと…」
「なんだ?まさかもうイクとか言うなよ?」
舌でネロの先端を突きながらVは妖艶に微笑む。ネロの反応がよほど気に入ったのだろう。
ネロはそんなVに悟られぬように悪態をつく。
「いや、その、そんな…あるわけねえだろ……」
じわじわと溢れる先走りをVは愛おしそうに吸う、その刺激でもうネロは限界だった。
「あっ」
「え?」
せめて口のナカには出すまいとVをそこから引きはがしたのが間違いだった。勢いよく発された白濁とした液が、Vの顔に、ゆるく伸びた髪の毛にかかる。しまったと思った時には、Vはそれを指で弄んでいた。
「………」
「……ネロ」
あまりにも早いそれに、ネロ自身何も言えなかった。Vはまるで猫が毛繕いするかのように顔についたそれを掬い取り、舐めている。
いやらしいそれに普段なら顔を赤らめているだろうが、視覚的興奮よりも気まずさが勝ってしまいなんとなく目をそらす。
Vはまるでみせびらかすようにネロのもとに顔を寄せる。本人がどう思っているかはわからないが、ネロにはVが自分を責めているように見えた。
「ネロ…たくさん出たな」
Vはそういって笑うが、ネロはもうベッドに体を預けVの視線から逃げる。
「うるせえよ」
「どうした?ネロ、もう終わりか?」
煽るような言葉だが、口調は幼い。せっかく遊んでたのにと残念がるような口ぶりに、いっそ腹が立ってくる。
ネロの体をすべるようにVが抱きついてくるが、なんとなく押しのけてしまう。
「…どうして?」
「知らねえよ……悪いけど、もう寝る」
ええ、と唇を尖らせるVに背中を向けたのは、有り余るような気恥しさによるもので間違いなかった。
まさかこんなに早く、しかも自分だけ先に絶頂した挙句に相手の顔にその欲望をたたきつけるだなんて、数時間前の自分は想像もしないだろう。
こんなに早いのも想定外だ。いつもはこんなんじゃねえと思うが、何が原因かもわからない。
…総て順調のはずのだった。
痩せぎすな体を抱きしめ、目を合わせ互いに微笑み、キスをして、服の上からVの肌をまさぐった。なにもこういった経験がまるでないわけではない。むしろうまくVをエスコートできたと思う。
できすぎていたといっても過言ではなかった。だからかもしれない。緊張していたなんて口が裂けても言えないが、まあ、ネロの様子を見たVが何を思ったかはどのみちわからない。
「やだ、シたい」
Vはそういってネロの体を揺する。
「いや、もう…」
正直少し…いやかなり心が折れかかっている。完璧主義者ではないと思っていたが、自分は案外繊細にできているらしい。
男としての矜持とか、そういってしまえばそれまでだが、もうどんな顔をしてVを抱けばいいかもわからない。
「む…」
Vは不満げに息を漏らし、ネロにのしかかる。それも結構な勢いをかけたものだから、骨が軋むんじゃないかというほどだった。
おいおいと体をVに向けると、Vがふふと笑う。
「なんだよ」
「やっとこっちを見た」
「なんなんだよ」
「俺はシたいから、お前はそこで寝てろ」
そういうと、Vはネロ自身に指を絡め何度も扱く。否応なく与えられる刺激に、一瞬は力を失ったそこが再び怒張し始める。今日ほどネロは己の若さを憎んだ日はなかった。
「いや、V…悪いけど、もう俺ちょっと…」
ネロの力ない制止などどこ吹く風といった具合で、Vは満足げにネロのそこを眺めると、ネロの下腹部を跨ぎ、自らの後ろにそれを当てがった。
そしてゆっくりと腰を下ろす。つぷ、とネロのそれがその思考とは関係なくVの後ろに侵入する。
「待て、V…あっ…」
「んっ…う、まだ出すなよ?」
挑発するようにそういうと、Vはゆるゆると腰を動かし始める。先ほどの愛撫で多少はほぐしたがまだまだキツイそこはネロを熱く包むと、搾りつくすように絞めつけた。口のそれとは圧倒的に違う刺激に、ネロは思わず悲鳴が出そうになる。
なんとか抑えると、Vはそれをせせら笑うようにネロの腹に手を乗せ、少しだけひっかくように爪を立てると、更にぐちゃぐちゃと淫猥な音を立てて腰を振り始めた。
あまりにも淫靡な光景に、それだけで絶頂に達してしまいそうだ。生白い肌が桃色に上気し、唇を歪めネロのそれを咥え必死に奉仕するその姿は、淫靡としか言いようがなかった。
「っふ…」
「あ、あっ……ネロ…気持ちイイか?」
髪をかき上げてそう問うVは、やっていることのわりにはずいぶんと不安げだった。
「……」
思わず目をそらす。Vはネロの手を取ると、自らの胸に当てさせる。しっとりと汗が滲むそこは先ほどよりも熱く、ネロの手に鼓動が伝わった。
Vのほうを見ると、視線がもろにぶつかる。Vは少し表情を緩めると、腰を揺らしたままこういう。
「俺だって…俺だってドキドキしてるんだぞ?緊張している…なんなら今も後ろだけでイキそうだ…」
「…は?」
「すごく、気持ちいい…っあ…腰、止まらな…っ」
不安げな顔のまま、Vはネロの手を己の上気した頬に押し付け、何度もキスをした。
その姿に、ネロは思わず足に力を籠める。なんだかそれまで拗ねていた自分が逆にみじめに思えた。この汚名を返上するのは今しかないとすら思える。
「…?ネロ?……っひ、あ、あ!?」
そして思い切りVを下から突き上げた。一気に奥にネロのそれが侵入し、それまでVがずいぶんと浅いところで善がっていたことに気が付く。
「あ、う…ネロ、ネロ…っ!」
「お前全然入ってねえんだよ…セックスってのはこうやるんだ」
何度か下から突き上げると、Vは急激な刺激に耐えられなかったのか、ネロの胸にぺたりと被さる。息を切らしふうふうと呼吸を整えているVが急にひどく可愛らしく思えて、体を起こすとつながったままその体を横たえさせる。形勢逆転だ。ネロはぺろりと唇を舐める。今度はネロがVを挑発する番だ。
「…なんなら後ろだけでイってみるか?」
「ん…やだ…」
Vがふるふると首を振る。ネロはそんなVの頬に唇を落とすと、ずる、と自らの雄をゆっくり引き抜こうとする。
「っひ…!あ……あっ!ひ…っ!」
そして愈々抜けるかくらいのところでずん、と腰を深々と打ち据えた。首を仰け反らせ善がるVの首筋に噛みつくようなキスをする。
何度も何度も腰を振り、Vはそのたびに艶っぽい声で啼いた。その声に誘われるままネロはその体を蹂躙していく…。
「童貞だったのか?」
シャワーを浴び、さっぱりした顔でVがそんなことを言うものだからネロは思わず飲んでいた水を吹き出すところだった。
「は!?」
「俺で…その、捨てたのか?」
ネロの反応を愉しむようにくつくつと笑いながらVは言う。
先ほどの乱れっぷりとはまた違う妖しげな笑みだ。いつも通りの。
「んなわけねえ、だろ…」
まあ確かに男とはしたことはなかったが、なんとなくそういうのも癪だった。
Vは相変わらず笑って、ネロの持っていたボトルを奪い取り、ぐっと飲みほした。
唇から溢れた水が零れ落ち、顎から首筋を水が伝う。わざとやっているのかというくらい扇情的だ。
思わず生唾を飲みそうになるが、いまさら何考えてるんだと打ち消した。
「どうした?」
「いや…なんでも…」
「童貞には早かったか?」
「違うっつってんだろ!」
そういってVを掴むとベッドに雪崩れ込む。
じゃれつくように体をまさぐると、Vが艶っぽい声を上げ、ネロに抱き着きこう言う。
「…またするのか?」
「…悪くねえな」
「もう朝だぞ」
そういってVはカーテンをちらりと開ける。すでに天は白みかけ、暖かい色に染まっていた。
構わないと思っていた。なんだか今は気分がいい。ずっと愛していたい。この魂を。
「お前結局後ろだけでイけなかっただろ?」
「…え?」
「後ろだけでイけるまで、抱いてやるよ」
そうして二人はまた溶け合う。いつまでも離れないように…。