江戸初期幕閣

大久保忠成が阿部忠秋の悪戯を松平信綱越しに嗜める話

特別腹を空かせていたわけではない。忠秋は多少人より恰幅が良いが、それとこれとは別問題だ。同じ仕事をしている人間の困った顔を見たかっただけで、それ以上の理由はない。それに、自分のことを甘え上手とは思わないが、事実として年上に可愛がられてはいる…

小火の炉

「私相手では面白くはないでしょう」長い仕事がようやく終わり、少し話し込むきっかけがあった。信綱は利勝が酒を用意するのを見て、素直に眉根を寄せそう言う。晩冬、まだ寒さの抜けきらぬ夜の事、利勝は笑いながらぬるく温めた酒を口に運ぶ。信綱は酒を呑ま…

無配

元々、甚三郎はこの家の子ではない。物心ついた頃にはもう土井家にいたが、元を辿ると水野家で生まれたと言う。しかし実際には甚三郎の父という人は水野家にはいなかった……らしい。皆が甚三郎の父はかの家康様だと噂する。容貌や話し方がよく似ているそうで…

雪に変わった雨は涙の粒

いつまでも続くかなんてそんなことはわからない。長雨だと思って眺めていたら通り雨だったことなんていくらでもあるし、それが雪に変わることだってあるではないか。ただ一つ言えるのは、必ずそれは終わるのだ。悲しくもあり安堵もある。信綱はなぜ悲しく思っ…