二人して俺になんの恨みがあるんだよ、と与一郎は言ったそうです
その日与一郎は苛立っていた。出かける用事が先方の都合で急になくなり、届くはずの手紙は届かず、手慰みで削り始めた作りかけの茶杓は盛大に手元が狂ってだめにしてしまった。そういう日もあるだろうと楽観的な人間ならば思えるのだろうか。与一郎にはそうい…
BL,SS,歴史創作,細川忠興,茶人,蒲生氏郷,高山右近
目覚めたままのからだ
「只今戻ったばかりで草臥れているとは思うが、なんとなく淋しいので、今すぐ来てほしい。昨晩も来てくれなかったので、今夜は必ず来てほしい」利勝はその手紙を見てため息をついた。この筆跡の持ち主は、普段私的な手紙を利勝に寄越すことなどほとんどない。…
江戸初期幕閣BL,R18,土井利勝,徳川秀忠,歴史創作,江戸幕閣
小火の炉
「私相手では面白くはないでしょう」長い仕事がようやく終わり、少し話し込むきっかけがあった。信綱は利勝が酒を用意するのを見て、素直に眉根を寄せそう言う。晩冬、まだ寒さの抜けきらぬ夜の事、利勝は笑いながらぬるく温めた酒を口に運ぶ。信綱は酒を呑ま…
江戸初期幕閣BL,SS,土井利勝,松平信綱,柳生宗矩,歴史創作,江戸幕閣
無配
元々、甚三郎はこの家の子ではない。物心ついた頃にはもう土井家にいたが、元を辿ると水野家で生まれたと言う。しかし実際には甚三郎の父という人は水野家にはいなかった……らしい。皆が甚三郎の父はかの家康様だと噂する。容貌や話し方がよく似ているそうで…
江戸初期幕閣BL,兄弟,土井利勝,徳川秀忠