いつまでも続くかなんてそんなことはわからない。長雨だと思って眺めていたら通り雨だったことなんていくらでもあるし、それが雪に変わることだってあるではないか。ただ一つ言えるのは、必ずそれは終わるのだ。悲しくもあり安堵もある。信綱はなぜ悲しく思ったのだろう。そうだとして、なぜ安堵するのだろう。
「また、違うことを考えているじゃないか」
忠秋は誰もいない時だけ、昔の子供の頃に使うような言葉を聞くようになった。こと閨に関しては、まるで子供同士のじゃれあいのように振る舞う。よくわからない。子供はこんなことをしない。まるでずっとこうだったように。まるでずっとこうであるように。
「……すまない」
「どうして、痛いの」
「痛くはない……どうしても、昔を思い出してしまうし……それに……」
「それに?」
忠秋は信綱の背中を撫でる。こうして向き合って抱き合うのは苦手だったはずだった。いつから平気になったのかがわからない。苦手だったこともっとき終わったのだろう。
「いつかこれも終わってしまうのかと思った」
信綱はそう言って忠秋の方をチラリと見遣ると、存外にその目がこちらを凝視していたので一瞬動揺する。悟られてはいないだろうか。なぜ見られていることに心が動いてしまったと言うのだ。わからないことばかりだ。
「終わって欲しい?それは……貴方が決めること、続けるも終わるも」
「私にその選択肢はない……と、思う」
「おや、知恵伊豆殿が珍しく言い淀むじゃないか。これは何か記録にでも残しておいたほうがよさそうだ」
「こんなことを?」
鼻で笑うが、先ほどからの会話でもう今ここで抱き合っている場合でもないのだ。理解しなければ。いま起こっていること、自分の考えを……全て理解しなければならないのに。
それを忠秋は待ってくれない。いつもはそんなことはない。むしろ信綱が待たずに進むのに。次から次から忠秋が持ってくるものは、いずれにしても信綱にはわからないことばかりだ。
だから気になるのだ。終わるのかと。
気がついたら、忠秋は信綱の首筋に鼻を寄せ、ぎゅっとこの……抱いたところでつまらないだろう体を、抱きしめた。そしてこう言った。
「……終わりたくない」
初めて聞いた彼の希望が、信綱の感情をどれだけ揺らしただろう。
雨だと思ったら同時に陽が出ていることもある。終わっているのか終わらないのかすらわからないこともあるのかもしれないが、まだ知恵伊豆と呼ばれた彼はそれを知らない。
ただ、なんとなく、明日はきっと晴れだろう。そう思った。