雨が降っている、それも大粒の雨だ。声を押し殺し与一郎の指の動きに意識を尖らせ、与えられる甘やかな刺激に耐える右近を見かねた天の情けなのか、それとも罪人を裁く鉄槌なのかは知る由もない。
「この土砂降りだ、きっとあなたの声なんて掻き消えてしまうでしょうね……さあ、我慢せず」
そう囁く与一郎の声がいつもより低く右近の耳を犯す。散々弄られ敏感になった胸元を滑らかな舌が追い討ちをかけるようにいたぶる。下腹部にのびた手が右近の雄を優しく撫で、かと思うと荒っぽくそのくびれを扱く。緩急に目眩がしそうだ。
「んんっ……」
「声を聞かせろ、と言っているんですよ……わかりませんか?」
抱き寄せられ再び耳元に吹き込まれる言葉に、硬直し微かに震えることしかできない。それが気に入らないのだろう、与一郎は舌打ちをすると、組み敷いていた右近の上体を無理矢理起こし、引き倒すように自らの体の上に跨らせた。乱された衣が重力に負け、擦れる音を立てながら右近の肌を露出させる。まるで右近が望んだかのような格好は殊更羞恥心を煽る。思わず息が漏れ、嫌だ、と口にしようとしたそのとき、与一郎の指が右近の臀部を掴み、まだ弄られていないそこをぐっと開かせる。
「ひ、あっ……」
「このまま挿れたら痛いでしょうね?」
そう言って与一郎は嗤った。なにをされるかを知らない右近ではもうない。彼の言葉が何を意味するかなんて、わかりたくなくてももう体が理解してしまう。思わず首を振り、否定の言葉を並べ抵抗する。
「や、やだ、いやだ……っ」
「じゃあ、どうすればいいんでしょう?俺はもうあなたとひとつになりたいですよ?」
「う……」
右近の抵抗を難なく躱し、お返しとばかりに自らの屹立した雄を右近の臀部に擦らせる。ぞわ、と背中が泡立つのを止められない。この熱く長いそれは、幾度となく右近の体と魂を乱した。
「ほら、早くしないと……俺は気が短いですから、待つのは嫌いなんです」
与一郎の雄がその言葉の通り、右近の秘部にあてがわれる。このままでは本当になんの準備もなく貫かれてしまう。右近は震えながら、おずおずとその手を自らの背後に回し、そして……指を秘部に当てた。
「おや、自分で解していただけるんですか?何もないのは大変でしょう、この油をお使いください」
そう言われて出された香油を前に、ちがう、と言いたくなるが、もう引き返せなかった。
何もしていないのに息が荒くなる。これから自分がしなければならないおぞましい行為を想像するだけで気を失いたくなる。
そっと指を濡らす程度に香油につけ、与一郎になるべく見えないように体を捩らせ、自ら腰を上げて秘部に押し込む。ぐち、と淫猥な音をたて、少しずつ指は侵入した。いつも与一郎にされていることを思い出しながら、必死に指を出し入れする。とっくに男を知っている体なのに、はじめての自慰に羞恥心と罪悪感と、なんだかよくわからない感情がせめぎ合いまるで初めて与一郎に抱かれた時のようにぎこちなく吐息を漏らした。体の力はもはや入らず、与一郎の体に突っ伏した右近の耳元で与一郎は満足げに笑う。
「そうそう、上手ですね……もしかして、普段からこうやって一人で遊んでいらっしゃるんですか?」
「……っそ、そんな、わけ……」
「では初めてですか、こんなにいやらしい体をしてるのに……生来のものですか、なるほど……」
侮辱の言葉に怒ることすら今はできない。素直に快楽を求めてしまうこのいやらしい体は確かに右近のもので間違いはないが、もはや右近のものではないからだ。
「もう大丈夫ですか、それともまだ弄ります?待つのは嫌いですが、これならずっと見ていられそうです」
もうやめたいのは山々だが、やめたら次に何をされるのかがわかっている。次第に柔らかくなっていく秘部に焦りを覚えたが、言葉のわりに与一郎はもう待つつもりはないようだ。耐える右近の唇を舐めると、右近の自慰に耽る手をとり引き抜く。そして力の抜けた体を起こさせ、臀部をいよいよ与一郎の雄が割っていく。
見せたくない部分が何もかも与一郎から丸見えなはしたない体位を嫌がったが、有無を言わせず与一郎は右近の秘部に雄をあてがう。
犯されると身を固くし目を閉じたが、与一郎は右近の秘部を軽くつつくだけで一向にその時は訪れない。
何が起きるのか分からず、恐る恐る目を開け与一郎の顔を見ると、そこには意地悪く笑う冷酷な眼差しがあった。
「自分で解くことができたのですから、勿論、自分で挿れることもできますね?」
「え……っい、いや……」
思わずそう言葉が漏れたが、与一郎はむしろ優しく頬を撫でる。そこに優しさはひと匙ほどもないのだが。
「できますね?」
「……」
右近の逡巡を許さない畳み掛けだ。もう従うしかない。不従順は右近をさらに苦しめるに違いない。右近は息を漏らし与一郎の雄を自らの秘部にあてがうと、少しずつ腰を下ろし自らそれを呑み込ませた。
「あ……っ、う……」
苦悶の表情を浮かべ受け入れる右近の隙だらけの胸元を、与一郎はまるで慰めるようにするりと撫でたかと思うと、徐に乳首を摘みつねった。
「あっ…?!ひ、あっあっ……いや、いや…あっ!」
それに驚いた右近は咄嗟に上体を逸らそうとしてしまい、まるでもの欲しくなったように一気に与一郎の雄を根元まで受け入れてしまった。指だけでは届いていなかった右近の奥の方まで急に犯され、思わず大きな悲鳴が出てしまう。
「う……あ……」
体ががくがく震え、目がちかちかとする。与一郎は満足げにそんな右近の腰を掴む。
「そんなに欲しかったのですか?焦らなくても俺は逃げませんし、楽しいのはこれからですよ……ああ、でも、今の声はとても好かったですね……ねえ、もう一度聞かせてもらえませんか?」
与一郎の煽る声はもう右近にはきちんと届かない。痛みと不快感を払拭してあまりある快楽の波に溺れ、右近は与一郎の望み通りに声を上げて喘いだ。与一郎に命じられ、自ら腰を振った。もうそこに羞恥心を差し込む余裕はなかった。
しばらくそうしていたが、飽きてしまったのか与一郎は上体を起こすと右近を抱き上げずるりと雄を引き抜いた。抜ける時のあの言いようのない感覚に右近は思わず甘い吐息を漏らす。ああ、もう終わったのだ、と何故か思った。やっとこの恥辱から解放される。そう思って右近は何度も浅い呼吸をしながら体をふるりと震わせた。
それを見て与一郎は右近の名前を呼び、唇を重ねた。情交が終わったあとに決まったように交わされる口づけを本当は嫌う右近だったが、大人しく受け入れ与一郎の舌に口腔内を好きにさせていた。じっとりと濡れた素肌の熱が少しだけ収まるかと思った時、与一郎は右近を再び押し倒した。それはもはや悪夢そのものだった。何が起きたかわからない右近を尻目に、与一郎の雄は右近の秘部にあてがわれ、声を上げる暇もなくあっけなく貫かれてしまった。
再び熱を持つ体に困惑し、手足をじたばたと動かしたもののそれは抵抗に至ることなかった。与一郎は心底楽しそうにくつくつ笑うと、右近の頬を撫でる。
「終わったと思いました?どうして?いつもこうして抱かれていたでしょう?」
「でも、で、も……!ひっ、あぁっ」
「さっきまでのはちょっとした余興のようなものでしょう?」
「そ、そんな……や、やだ、いや、も、もう…ゆるして……」
「やめるわけないでしょう?ずっとあなたの好いようにしてたのですから、今度はいつも通り、俺があなたを好きなように抱くんですよ……?」
与一郎はまるでそれまでの反動のように激しく責め立てた。それに抗うこともできない右近の悲鳴は、いつまで経ってもやむことのない雨に掻き消されるだけであった。