「男とする時はこうするものです」
まあ、自分もそう男を抱いたことがないのだが。
まあいい、少なくとも目の前の色の白い無垢な罪なき肢体には疑うべきものではないだろう。
与一郎は右近の体を伏せさせ、丹念に後ろを解くと、ゆっくりと自らの雄で貫いた。初めてだから仕方ないのだろうが、女のそことは桁違いに締め付けるそこは、与一郎に少しばかりの嗜虐心をくすぐった。
「っふ……ぁ……あ…?」
右近の体に馴染むまで、与一郎は動かなかった。代わりにその癪に触るほど細い腰や、胸元に指を這わせ意識を少しずらしてやる。
「ん……んん…」
乳首を弄られくすぐったいのか、それともすでに快楽に目覚めつつあるのか、右近が微かに体を震わせる。
今だ。
与一郎は一度右近から雄を引き抜き、完全に抜け切る直前で再び押し込んだ。完全に意識を逸らされていた右近から声にならない悲鳴が響く。
「好いでしょう?」
「あっ……あ…」
息を漏らし首を横には振るものの、その体は今の刺激を求めて与一郎を締め付ける。随分と思った通りに動く体だ。あまりにも思い通りなので少しつまらなさも感じるが、別に構わない。この男がどうなろうと知ったことではない。
再び動かない与一郎を、右近が不審げにちらと振り返ろうとする。その唇が見えてしまったから、与一郎は右近の上体を逸らさせるように起こさせると、何が起きているかわかっていない右近の唇を無理矢理塞いだ。
「ん……っ」
噛み付くように口付けをした後に思い出した。ああ、そういえば、唇だけはあいつに譲ってやろうと思っていたのだが。まあいいか。
口付けの余韻でふるふると身を震わせる右近の背中をとんと押してやると、あっけなく床に伏せた。また雄を引き抜き、思い切り呑み込ませる。
「あぁっ…!」
右近の上擦った喘ぎ声は、思ったよりきちんと男の声だった。まあ、別に女扱いするつもりははなからない。
その後も何度もゆっくりと抱いてやった。時間はある。少しずつ、侵食するように。気がついた時にはもう遅いのだ。その体はすでに引き返せない。
いつかきたるその時に、この体は気がつくのだろう。あの優しい手がその身に触れ、抱いた時に。自らの罪を知るのだ。毒を燻らせ、抱かれた罰を受けるのだ。
忠三郎はいつになく緊張していた。
右近の誘いを受けてやってきた彼は、ふたりきりになった途端にその体を包み込む。
思いを打ち明けて、それなりに時間がかかったが、右近は彼を受け入れると答えた。そして、右近の誘いは、つまりそういうことだった。
暗い部屋で抱き合い、体を触ると…右近もまた緊張しているのだろう、ぴくんと体を震わせる。
それが、たまらなく愛い。
それから…互いに体をまさぐり、高めあい……ふたりはひとつになった。
「あっ……ん、ん!あっ!」
初めてにしてはやけに反応が良い。無理をさせてはいないかと心配していたが、右近の身体の好さに次第に忠三郎も飲み込まれてしまった。
しかし、腰を何度か押し付けていると、思った以上の反応を示してきた。
「あ、あっ、ま、まって、だ…だめ、だめっ」
ぎゅう、と忠三郎の体にしがみつき、右近が悲鳴をあげる。だめ、と言われて流石にどきりとして動きを止めると、まだ挿入し間もないと言うのに右近ははあはあと息を切らしていた。ぴったりと抱き合っているのでよくわかる…右近の身体はもはや痙攣に近いように震えていることに。
「右近殿……そ、その、だ、大丈夫ですか…?」
「あ、あ………ご、ごめんな、さ…い……私…わたし……」
顔を見ると、右近の白い頬は桃色に染まり、唇まで震えているようだ。目には涙まで溜まっている。本当は嫌で仕方ないのではないだろうか、何か、気に障ることをしてしまったのではないだろうか。気遣うようにその頬に唇を寄せる。
「…嫌だったら、すぐ、やめますから……」
「ち、ちがうんです……あ、あの……ん、ん…」
そう言う右近はまたぴったりと抱きついてくる。どうも嫌と言うことではないようだが……忠三郎は、あることに気がついた。
右近が先ほどから少しずつ、もじもじと腰を動かしていることに。
「…右近殿…?」
そう言葉をかけるが、右近は答えない、少しずつ腰を上げ、忠三郎の雄を呑み込み締め付けているこの動作は非常にいじらしいが……。
試しに軽く出し入れしてやると、甘い声をあげ体をびくりと震わせた。ほんとうにはじめてなのだろうか……いや、過去を詮索するようなことはしたくないし、それを直接右近の口から聞き出すようなこともしたくはない。右近が語らない以上、それはなかったことなのだ。たぶん。
「忠三郎殿……あの、だいじょうぶ、なので…」
つう、と涙を零しそう言う右近を見て、忠三郎はよくわからなくなってしまった。彼の体はこの行為を悦んでいるようだが果たして彼の心はどうなのだろうか…。
余計な考えがチラつき、少しずつ腰の速さが上がっていることに、忠三郎は気がつかなかった。
「ひっ…ぁ、あ、あっ…あっ」
それまで不自然なほど密着していた右近の身体が弓のようにしなり快楽を散らしている。それを見て我慢ができるほど…忠三郎にももう余裕はなかった。
だから気がつかなかった。忠三郎の腕の中で、何度も何度も右近が何かに詫びていたことを。
「あっ、あ、ごめんなさ、い…っごめんな、さ……あぁっ」
その言葉が忠三郎に聞こえたところで、彼にその意図を知るすべはなく、彼もまた、右近の体にまとわりつく毒に飲み込まれていくのだった。