「呆れた」
宗景は眉を上げ、川のほとりに座る男を見下ろした。全く何も変わっていない。久しぶりに会って多少は動揺するかと思ったし、宗景も密かにそれを恐れていたが、あっけないほどの穏やかな再会だった。
「あなたに呆れられるようなことは何もしていませんよ」
「どうだかね。芳の目を使うなんて随分趣味が悪いよ、君」
自覚がないみたいだから教えてあげるけど、と言い加えて隣に座る。
昔のようにはいかないし、戻れないし戻ろうとも思わない。まったくこの男にどれだけ振り回されたんだと思う。それに振り回されたこちらもだいぶ悪いとは思うが、不可抗力の部分も大きい。大きすぎる。
「私は親としてあの子の願いを叶えただけです」
「芳を追い出しておいてよく言うよ」
「娘でなく私を選びかけたくせに」
「はあ?そうさせたのはそっちでしょ」
喧嘩するつもりはない。本当にただの軽口の中に、互いに本音をちらつかせているだけだ。
「娘に私を見て手元に置き続けたあなたも大概ですよ。自覚がないようですけど」
「そっちに言われたくないよ」
しばらく黙った後に。宗景はふうと息を吐いた。
「もう会えないと思ってた」
「私は会いたくありませんでしたけど」
「いちいち私の気持ちに水を差さないと死んじゃうのかな!?」
「死んじゃってるんですよ、私たち」
ああ、と宗景は顔を覆う。こんな男の何が良かったのか思い出せない。記憶の中の直家はもう少し……いや、やめよう。いらないものまで思い出してしまう。
「最後に会った時はぐずぐずだったのに、あの子のおかげで立ち直れたんですね」
「本当だよ。人でなしにめちゃくちゃにされた人生だったけど」
その時直家は、ふっと笑った。
「人でなしはお互い様ですよ」