ぱちゅ、ぱちゅ、と卑猥な音を立てて体のぶつかる音が微かに響いた。必死に声を殺しているが、最近なぜか声を我慢することが出来ず、後で肝を冷やすことが増えている気がする。
「ん、ん……っあ、あっ」
与えられる快楽を吐息に込め、忠利の体をぎゅっと抱きしめた。加賀爪忠澄は……その名を貰う前から、こうして彼と深い仲になっている。初めては忠澄から誘ったと思う。忠利は甚十郎、と彼を呼ぶとこの体を抱きしめ押し倒した。何をされてもいいと思っていたから、それすら愛おしかった。それから何年経ったろうか。何度も体を重ね睦み合った。忠利は忠澄をけして乱暴には扱わないし、逆も然りだ。そこには互いに敬意があり、混じり気のない思慕があった。少なくとも忠澄はそうだと思っている。
忠利の指先が繋がったそこに触れる。多少の気恥ずかしさに体が震えたが、彼はすぐに忠澄の雄に触れ、優しく扱いた。
「ひゃっ…あっ…!」
前後から与えられる温かい刺激に耐えきれず大きな声をあげてしまう。思わず口を塞ぐと、耳元で忠利がこう囁く。
「大丈夫…みんな寝てるよ」
たしかにもう夜更けではあるのだ。互いに最近忙しく、昔のように人目のない時を見計らっては交わってた頃とははるかに違う。それを大人になったから仕方ないと諦めるつもりはない。むしろ都合のいいことだって増えたのだ。それでも昔の名残で声を押し殺す癖だけは抜けなかった。
耳朶をその柔らかな舌が舐める。堪えきれず忠澄は自ら忠利に口づけをせがんだ。昔からよくこうして、全てを満たしあっていた。重ねるだけの口づけはやがて激しく変貌すると吐息の奪い合いに発展する。忠利の背中に回した腕を固くし、上も下もかき混ぜられる感覚に打ち震えるしかできなかった。最後に互いに唇をちゅ、ちゅと啄みあうと荒い呼吸を隠さず見つめ合った。
……忠利は、忠澄があえて言うほどでもないほど愛らしい顔立ちをしている。体つきはだいぶ大人になったが、童顔というべきか、少女のように垢抜けない頬などが非常に好ましい。それがじっと余裕のない顔で忠澄を見ているのが嬉しいが、いまはそれを表現できるほどの余裕がなかった。
「甚十郎殿は、本当にいい顔をしている……」
息を吐きながら、少しずつ忠利はそう忠澄を呼ぶと頬に唇を寄せる。まるで考えすらも忠利にしっかりと握られているようでくらくらする。思わず背中に回していた腕を緩め、そっと忠利の指にその指を絡ませた。それを何も言わず受け入れて絡み返す忠利がやはり愛おしい。
「離さないでくれないか……ずっとこうしていたい……」
溢れ出た言葉は笑ってしまうほど陳腐なものだった。もっと気の利いた言葉はこの世にごまんとあることを忠澄は知っているし、それを手に取ることだってできたはずだった。そのはずなのにどうしていつも忠利に抱かれている時に限ってこんな幼子のような睦言しか出てこないのだろう。
忠利はにこりと笑うと、絡んだ指はそのままに身を起こした。そして忠澄の中に這入った忠利の雄がさらに奥を突く。手を繋いだまま何度も達したされ、久しぶりの感覚に湿った体を震わせるばかりだった。
「あっ……ん、ああっ」
互いの指先をしっかりと掴み、忠澄と忠利は互いを貪り合う。この関係を咎められたとて、そこに流れる情について否定することは二人ともしないだろう。
ふうふうと息を吐き互いに抱き合った。少しだけ眠ったらまた朝がやってくる。まだ見ぬその光は、忠澄を確かに照らしている。